山田さん的非日常生活

「…ありがと、送ってくれて」

「いえ。僕が山田さんに会いたかっただけですから」


ゆっくり休んでくださいね。そう言ってカボは優しく笑う。

整ったカボの顔は、夜の星明かりの下ではさらに大人びて見えた。


「うん…、じゃあ」

「はい。お休みなさい」

「………」

「……山田さん?」


助手席からなかなか降りようとしないあたしに、カボは不思議そうに首を傾げる。


あたしも不思議だった。どうして車から降りれないのか。


多分。

多分、もう少しだけ。カボと一緒にいたいと思ったんだ。

こうしてすぐ隣にいても、カボが笑いかけてくれても、生まれてしまった不安な気持ちが消えてくれない。


もし、カボの気持ちが揺れちゃったらどうしよう。

もし、飽きられちゃったりしてたらどうしよう。

不安だよ。
カボ。

どっかに行っちゃったり、しないよね?


俯いたまま黙り込むあたし。

頭のてっぺんに、淡い体温が触れる。


ポンポン、と、カボの手のひらがあたしの頭を優しく叩いた。


「クリスマス、楽しみにしてます」

「……うん」

「お休みなさい、山田さん」

「……うん」


わずかに残る、手のひらの感触。

車から降りると、冷たい外気があたしの皮膚に染み込んだ。

冬は、人肌が恋しい季節だって言う。それを今、ものすごく実感した気がした。

開いた温度の落差に、好きな人の暖かさがいっそう恋しくなるのだろう。


去っていくカボの車に、自分の白い息が重なる。

寒さのせいで瞳に張った涙は、空の星を滲ませて見せた。


「…カボのバカ」


こういう時に限って、キスしてくれないんだ。

自分のことを棚に上げてそんなことを思う。


.