山田さん的非日常生活

─にっこり。

下にテロップ流すなら絶対そんな文字が出てた。

口の端が引きつる。猫かぶるどころか、その変わり身の速さはまるで忍者だ。カメレオンだ。カメレオン梢。なんかもう絶対売れない芸人みたいな名前だ。

可愛いからって何でも許される、何でもうまくいくと思ったら大間違い…


「梢ちゃんがバイトに来てくれてから、男性のお客さんが増えてね〜」

「ええーっ!!あたし関係ないですよぉ〜」

「いやいや、梢ちゃんのおかげで店も大助かり!!梢ちゃんはねぇ、現代社会に疲れた男性陣の心のオ・ア・シ・ス☆」

「もうやだ〜っ!店長ったら!!」


…って言いたいところだが、実際大方許されるしうまくいく。ひどい世の中だ。

キャピキャピと楽しそうに会話する二人。ドリンク補充をしようと、あたしがレジから離れたその時だった。


「梢ちゃん、そんなに可愛いんだから男がほっとかないでしょ?」


お前はどっかの会社のセクハラ上司か!ってなかんじにいい具合に湿った声で、店長がそう言った。

一瞬足が止まる。思わず聞き耳を立ててしまう。


「…彼氏はいないんですけど、ずっと好きな人がいて」

「おおっ!一途なんだね梢ちゃん!!梢ちゃんに好きになられて落ちない男なんていないでしょ〜?」

「いえ…今まではあたしなんかつりあわないって思って見てるだけで。でも、ちゃんと頑張ることにしたんです!」


二人並んで歩いていた映像が脳裏に浮かぶ。

…ちゃんと頑張るって?

背中がヒヤッと冷たくなる。聞きたくない。だってそれって、梢さんがカボにってことでしょ?

…っていうか、勤務中なのになんでレジ前で恋愛トークぶちかましてるんですか。っていうかとりあえず口についてるクッキーのカケラをどうにかしてください店長。

聞きたくない。補充するドリンクを冷蔵庫に取りに行こうと足早になる。


「…クリスマスに、告白しようと思ってるんです!!」


それもむなしく、可愛らしい梢さんの声がハッキリと耳に飛び込んできた。

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