山田さん的非日常生活

勢いよく立ち上がってしまい、座っていた椅子がガターン!と後ろに倒れた。

なんでよく知りもしない梢さんにそんなこと言われなきゃならないんだ。大人な対応なんて、頭からすっかりすっ飛んでいた。


至近距離で梢さんとにらみ合う。

勢いに任せてケンカを買ってみたものの、さっそくちょっとひるんだ。
梢さんのバッチリ整った顔は可愛いだけじゃなく、相手を威嚇するのにも十分すぎる効力があった。


「…前にアンタが東山家に来た時は正直腸煮えくり返りそうだったわよ」


低くドスの効いた声で梢さんが言う。カボを目の前にしたさっきとはえらい違いだ。


「浩一郎さんが彼女を連れて来るっていうからすごくショックで…でもきっと浩一郎さんが選んだ女なんだから美人で良家出身の淑女に違いないって。だから仕方ないって、そう思ってたのに…!!」

「……」

「〜なのに来たのはこんなド庶民のコンコンチキな銀杏女!!お茶とか飲んで平静装うとしたけど、カップ持つ手がアブトロニック装着時並みに震えたわよ!!」


…アブトロニックて。

お腹に着けて振動させて腹筋鍛えるって、ちょって前に流行ったヤツですよね?

うちにもお母さんが買うだけ買って満足して押し入れに眠ってる某商品がありますけど…


…じゃなくて。


やっぱり、これはどう考えても梢さんがカボに好意を抱いていることで間違いないらしい。

梢さんは大きなため息をつくと、力が抜けたように椅子に腰掛けた。


「これからもバイトでこの銀杏女と顔を合わせなきゃならないかと思うと…なんて言うかもう、ハァとしか言いようが…」

「ちょ…っ、さっきから銀杏をバカにして…!!あのねぇ!銀杏は無事に育ったイチョウの木が実らせた大切な結晶なの!!昔から漢方薬として使われてきたし、血流量を高めて血栓を防止したり、記憶力を高める効果が…」

「…ずいぶん詳しいのね」

「…あ、うん…おばあちゃんから教わったんだ…」


おばあちゃん、お正月の茶碗蒸しにいっつもこれでもかっていうほど銀杏入れるんだよね…


…じゃなくて。


なんでちょっと和やかな銀杏トークになってるんだ。しかも気がついたら、いつの間にかお互いに敬語じゃなくなってるし。

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