それからのバイトは、それはそれは気まずい時間だった。
梢さんの敵意のこもった視線をずっと背中に感じるわ、かといって振り返ればあからさまに目をそらされる。
しかもそんな二人の間に漂うピリッピリした空気を微塵も読みとってくれない店長は、
「レジ出とくから、山田は梢ちゃんに返本の仕方教えてやってくれ」
…とかなんとか言って、あたしの肩の荷を倍増させた。
二人して無言のままバックに戻り、店長のデスクにあるパソコンの前に行く。
相変わらず目線を合わせてくれない梢さんだったが、こっちがイラついても仕方ない。
…ここは百歩譲って大人になろうじゃないか、幸子!!
「…えっと、返本はこのボタンをクリックして、まず日にちを──」
「そんなの知ってます」
「…ええ、そうだと思ってましたけどね!!」
…抑えろ、抑えるんだ幸子!!
こほん、と心を落ち着かせるために一つ咳払いをする。自分でも気持ち悪いくらいの笑顔を、無理やり顔に貼り付ける。
「梢さんほどの高知能を持っていらっしゃるお方なら知ってらっしゃるとは思いますけど、印刷して出てきた紙に書かれてる売れ残り雑誌の冊数を──」
「ぷっ」
「………?」
いきなり梢さんがくすくすと笑い出したので、訳が分からなくて顔をしかめる。
梢さんはわざとらしい笑顔を作りながらあたしに言った。
「あ、別に思ってませんよ?浩一郎さんと山田さんが並ぶと山田さんが宇宙人みたいに見える、だなんて」
「………」
耐えろ、耐えるんだ、山田幸子!!こういう時こそあれだ。円周率でも頭で唱えよう。えーと、3.151……?1…の次なんだっけ?…羊?もう羊でも数える?えっと、羊が一匹、羊が───
「山田さんってなんか…ザ・脇役?っぽい顔ですよね。顔もだけどオーラもいまいちパッとしないっていうか」
…羊、が、二匹。羊が、三匹。
「ああ!茶碗蒸しで例えるなら底に沈んでる銀杏の崩れたやつってかんじですよね!!」
…羊が、四匹。銀杏が、五個………
って。
「〜誰が銀杏よ!?」
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