山田さん的非日常生活

いやいや待てよ。

確かに顔は一流品だけど、中身はただの突拍子もないカボチャ野郎だよ?そんな男好きになる変わった嗜好のヘンテコリンな女なんて……

…ってそれあたしのことじゃんか。


一人ツッコミながら冷蔵庫の棚に置かれたプリンに手を伸ばす。


「………」


梢さんは一つどころか三つもお取り置きしていたらしく、縦に積み上げられたかぼちゃプリン。

三つのプリン容器には上から順に一つずつ、油性ペンでくっきりと文字が描かれている。



『浩』


『一』


『郎』



「………」


…梢さん、店の商品に勝手に名前書かないでください。

浩一郎って普通の名前なのに、こんな風に並べられるとちょっと面白おかしく見えてくるんでやめてください。



裏から店に出ると、長身のカボの頭がすぐに目に飛び込んできた。

人より頭一つ分飛び出ている上に金色だから、すぐにわかる。

レジ台を挟んでそのすぐ真ん前で、花のような笑顔を浮かべた梢さんがカボに話しかけていた。


…こうしてはたから見てみると、二人はすごくお似合いだ。

まさしく美男美女って言葉が当てはまる。


女の子は誰でも笑顔でいれば可愛く見えるっていうけど。

もともと可愛い人が笑顔になると、とんでもなく可愛くなるんだから凡人はどうあがいたってかなわない。


「あの〜?」

「うわっ!?すみません!!こちらのレジどうぞ!!」


…っていうか梢さん、カボに夢中で気づいてないけど後ろにお客さん並んでますけど!!

慌ててレジに入り、お客さんから商品カゴを受け取る。


「こちら105円が一点、130円が一点──」

「すみません、あと肉まんも一つ」

「………」


…ああもう!!


寒くなってくるとあったかい商品の注文が途端に増えるから面倒だ。しかもカゴにアイス入ってるし。あったかくなりたいのか冷たくなりたいのかどっちだっつーの!


あたしが忙しくあたふたしている間。

邪魔になると気を使ったのか、いつの間にかカボはいなくなっていた。


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