山田さん的非日常生活

「〜浩一郎さんっ!!」


さっきの低い声とはうって変わって、可愛らしい高めのトーンの声が隣から飛んでくる。

あたしに向けられていた細くつり上げられていた目は、まるで少女マンガのようにキラキラと輝いていた。


…な…なんだ?


梢さんの別人っぷりに唖然とする。

カボは梢さんにもニッコリと微笑むと、レジの上にことんと一つの容器を置いた。


「…どしたの?カボがこんな時間に珍しいね」

「近くに用事があったものですから。それに、今日から梢さんがここでバイトするって言ってたので、様子を見に」


カボがそう言い終わるか終わらないかのうちに、あたしをタックル並みの勢いで押しのける梢さん。

カボの目の前を陣取ると、キラキラした瞳のままカボの両手を取った。


「私のこと心配して来て下さったんですか!?」

「梢さんのことだから心配はしてないですよ。梢さんはしっかりしてるし、仕事も早いし」

「そんな…浩一郎さんにそんなこと言われたら梢、照れちゃいます。梢さんのようなしっかりした大人の女性は好みだなんて…っ!!」


…いやいや、誰もそこまで言ってないだろうよ。

梢タックルのせいで痛めた骨盤をさすりながら見上げると、ちょうどカボと目が合った。

黒のスーツ。薄いストライプ入りのシャツに、ネクタイ。お父様の会社にでも行っていたのだろうか。

この前のブレザーよりずっと大人っぽい。スーツ姿のカボはいつにも増して男前度が高いけれど、ふにゃっとした笑顔のせいでそれが帳消しになっている。


「それに、山田さんの顔も見たくって」

「………チッ」


…あの、今舌打ちが聞こえた気がするんですけど気のせいでしょうか?


とりあえずカボが持ってきたプリン容器にバーコードリーダーを当てようとして、止まった。


「…あれ?カボ、いっつものかぼちゃプリンじゃないの?」


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