山田さん的非日常生活

…タカミネ、コズエさん。


「山田さん、ご指導何卒宜しくお願いいたします」


驚くのも無理はない。礼儀正しく頭を下げた彼女は、カボの家専属お手伝いさんの、

あの"梢さん"だったのだから。


「え…えええっ!?梢さん、なんで──」
「コラコラ山田!高峰さんはお前より二つ年上だぞ?いきなり馴れ馴れしく下の名前を呼んじゃいけませんっ!!」


…いけませんっ!!て店長、どんなキャラだよ。

いつもより二割り増しテカってる上に三割り増しで鼻の下伸びてるよ。いくら梢さんが美人だからって…


「────」


…そうなのだ。この前カボ宅に行った時にはチラッとしか見ていなかったからあまり気づけなかったけど。

梢さんは、ものすごく美人だ。

髪はふわふわで天使の輪ができてるわ、くっきりした目鼻立ちに睫毛はバッシバシに長いわ、まるでフランス人形みたい。

寸胴のっぺり顔、フランス人形じゃなく日本人形似…それどころかコケシ似のあたしとは大違いだ。

あたしが見とれてぼうっとしていると、ニンマリ気持ち悪い笑顔を浮かべた店長があたしの肩を叩いて言った。


「山田、じゃあまずレジ打ち一緒に教えてやってくれ……梢ちゃんに!」

「………」

「よろしくぅ!!」


…さっきいきなり下の名前で呼ぶとか失礼だって言ったの誰ですか、店長。


とっくに勤務時間を回っていたので、取りあえずコンビニの制服を羽織って店内に出る。

梢さんも同じ真新しいニコニコマートのユニフォームを着て、あたしの後をついて来た。

夕飯時までにはもう少し時間があるから、店内には立ち読みのお客さんが一人いるだけだ。


…それにしても梢さん、お手伝いさんの仕事はどうしたんだろう。

だって普通、お手伝いさんって住み込みでほぼ一日中勤めてるお屋敷の料理や掃除や雑用やらをするもんじゃないんだろうか?


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