山田さん的非日常生活

ズカズカと店長に向かって歩み寄る。光るオデコを目前に、シフト表の"山田"の名前に思いっきり濃く赤線を引いた。


「あたしにだってちゃんと予定ってものがあるんです!!」

「山田が!?…クリスマスに!?」


…なんなんですかその驚き様は。


「…あたしにクリスマスの予定があっちゃおかしいですか?」

「ええええっ!?山田…おま、まさか…彼氏がいるのか!?」


…テカってるオデコを突き出さないでくださいお願いだから。

あたしが頷くと、店長は放心したように体を投げ出して椅子に座る。

まるで「世界があと24時間で終わる」って言われたみたいな反応だ。そんなにあたしが誰かと付き合ってるのが意外ですか。そうですか。うん、ほんと失礼極まりない。

っていうか廃棄のコンビニ弁当とか菓子パンばっか食べてるからそんなにテカるんだ。もういっそ、減少しつつある石油の代替え品として寄付してあげればいい。


時計を見ると、もう出勤時刻五分前を過ぎていた。

着替えないと──そう思って奥のカーテンルームに入ろうとしたその時、慌てたように店長に引き止められる。


「そうだ山田!お前に頼みたいことがあるんだ!!」

「…なんですか?」


迷惑極まりない顔で振り返ると、店長はニタリと、爽やかさのカケラもない、それはもう「なにがスマイル0円ニコニコマートだ」って言いたくなるような油っこい笑顔で言い放った。


「今日から、新人さん来るから。教育係よろしく!!」

「はぁ!?教育係って──」


いきなりの命名に思わず大きな声になるあたし。その背後で、バタンとドアが開けられる音がした。

目に飛び込んできた、ふわりとした栗色の髪。揺れる丸い瞳。


…どこかで見たことがあるその美女に、あたしは声を失っていた。


「山田。こちらは今日づけの新入りバイト、高峰 梢さんだ」


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