第二小節:サロンの要求


サロンは考えていたー。


まだ少女だった娘のミサを連れて、ダルダの人形店へ行った時の・・・・・


それはもう十年以上も昔の約束だったが、そんな忘れかけた娘との約束をなんとか叶えてやりたい・・・・・。自分が仕事の為、ベルシナを発つ前に・・・と――。



サロンが今度の仕事の都合で故郷を離れてしまうと、この故郷へは何年も還って来れない。


生と死を背中合わせにする長い船旅を前に、彼の唯一の生きる希望である、命よりも大切な一人娘に、娘の一番の願いである、あの人形だけは残してやりたい、と――。



時は既に“夕の去の刻”。

夕暮れが、闇に変わろうとしている。



馬車がベルシナへ入ると、その窓からは、ベルシナのサバル地方にあるペルソワの街が望める。


街の見渡す限りの家々の明かりが、既に数知れぬ星達で覆われた夕焼けと闇夜のグラデ-ションの下で輝いている。


そして反対側の窓からは、開放された門の向こうに構える、まるで城の様な豪奢な建築物が見える。



この門の向こうだけは、まるで別世界のように、数々の窓と言う窓からは明かりが輝くほどに溢れ出し、美しい夜景を創り出して、小高い丘の上に建つそれは、遠くから見ても良く目立ち、今にも日も沈み切ろうとしいる黄昏混じりの夕闇に良く栄えている。


一般の民達なら誰もが憧れる会員制と言う珍しいシステムのレストラン“舞踏会”。


―― ここは、かつてこの国に貴族豪族達がはびこっていた時代の、大貴族ミューシャンの一族達が住んでいた館をそのまま利用し、豪華絢爛な館の大広間は、今の時代でもレストランを備えたダンステリアとして、金持ちたちが集い、毎夜舞踏会に明け暮れている場所である。


ここは初めに大金を払って入会し、会員になった者が自由に予約をし、出入りを許される場所で、この館内にはその他の施設も用意され、当時ミューシャンの一族が利用していた間取りの広い贅沢な家具に囲まれた部屋は、レストランの利用客が無料で宿泊できるサービスとして使われているが、もちろんここも完全予約制になっている程の人気を見せていた。