「阿弥樫町より参りました。雪代冬矢と申します」

最初はお辞儀をして礼儀よく。
戦いをしに来たわけではないので、あくまで低姿勢。


「……天狗岳の大天狗だ」

「今回はお話があってまいりました」

「わしからはない。帰るがいい」

バッサリ一蹴。
だが、ここで引き返すわけにもいかない。

ここで引き返せば、天狗たちは阿弥樫町の町妖怪を攻撃する。
それは目に見えていることだ。


「まあそうおっしゃらず……。少し世間話でもするつもりで」

「町妖怪と話すことなどない」

取り付く島がない。
もう少し食い下がってみる。


「なぜそこまで町妖怪を嫌っておられるのです?」

「話すことなどない」

「……先代、ぬらりひょんが話すことには、昔あなたとぬらりひょんは盟友だったとか」

「………………昔の話だ」

少し表情が変わった。
そこに糸口を見つけ、さらに話を進めていく。


「盟友が束ねた百鬼を攻める理由はなんですか?」

「……お前は何も知らないのか」

ゆっくりとだが、大天狗がこちらの質問に答えるようになった。
そして出てきた言葉。『何も知らないのか』。その言葉に眉を寄せる。

「ええ。お聞かせ願いたい」

「……ぬらりひょんにでも聞いてみることだな。わしからは話すことなど何一つない」

「そうですか……」

やはり、憎しみの正体に触れることはできなかった。
だが、気になることがある。大天狗は恭子に聞けと言った。
恭子はここに来ることに対し何も言ってこなかった。何か隠しているのだろうか。
大天狗との間にいったい何があったのか。

それは帰ってから聞くことにする。
ひとまずは目的を果たしておこう。