後日、冬矢は『退魔の泉』へと案内される。
見た目では水が煌めく美しい泉。
神聖な空気を漂わすその場所は、じりじりと妖気を蝕む。
妖怪にとっては毒に等しい水。
多くの雪女が見物に来た。
泉の水に触れるだけで通常の妖怪は耐えられない激痛が襲う。
「では、始めなさい」
女王の声がその場に行き渡る。
その場がしん、と静まりかえる。冬矢は、一歩一歩、前へと踏み出した。
自分の妖気が削られていくのを感じる。
踏み出すたびに人間に近づく。
一歩、足が水につかる。
全身に痛みが走る。神聖な水は妖怪の自分を苦しめ、人間の自分を癒す。
また、進んでいく。後ろでは雪女達が息をのんでいる。
腰に水がくるまで進んでいく。
痛みに耐えながら進んでいく。
「冷てぇ……」
冬の時期の泉の水は氷のように冷たい。
雪女の血を引く冬矢にとって、冷たいという感覚は知らなかった。
だが、聖水で妖気をそがれ、人間と変わらない今は感じる。
初めて感じる『冷たい』という感覚に身を震わせる。
「……」
胸まで水が来たところで、冬矢は立ち止まった。
ここで、このまま10日間耐え続ける。
このまま立ち続ける。飲まず、食わずの状態で。
後ろでに縛られたロープは岸に立てた杭にくくりつけられる。
もう、ここからは逃げられない。
妖怪の力を無にされ、人間の状態で、耐え続ける。
人間としての体力、気力、でこの極限に耐え続ける。
賭けが始まった。



