そう思いながら、自然と現場に落ちていたカバンに気持ちが回る。


 事件が発生して臨場してからすぐに、検視官の三谷との合同検視の際、害者が所持していたカバンからは財布やケータイなど金品に値するものが取られていなくて、代わりにカバンの口が空いたままだった。


 物取りではなかったとしても、カバンの口が空いたままだったのは不自然で、間が抜けたような感じがする。


 普通、人を殺害したとしたら、真っ先に金目のものに手を付けるのが自然だろうが、ホシはそんなことをせずに、カバンから別の何かを抜き取って、見られたらまずいと思い、そのまま逃走したものと考えられた。


 それにカバンごと持っていく方法もある。


 つまりホシは何かを狙っていたのだ。


 金目のもの以外だったとしたら、商社にとって一番肝心のデータや機密に関わる何かなどだと思われるが……。


 坂野は藤野と現場に行く前までデスクに座り、淹れていたコーヒーを飲みながら、じっと考え続けていた。


「坂野巡査部長、内線三番にお電話です」