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 村川グループと癒着している前島実業に対して、検察側の内偵捜査がほとんど済んでしまい、立件だけとなった状態の中、恒世が自社の資産公開に踏み切ったのは意外だった。


 これは特捜の人間たちにとっても予想外の事柄だったと思う。


 坂野や岩永、西谷ら新宿中央署刑事課の刑事たちも不可思議でならなかった。


 近々大規模なガサ入れが敢行されるという段階になって、拍子抜けしたような格好だ。


 坂野たちは風聞で、村川グループの銃器や薬物の横流しを、本庁の組対五課の連中が張っていることを知っていた。


 今現在、署でも中枢にいる警視正の栗川と本庁組対五課に所属している警部補の東園寺が協力し、水面下で捜査を進めている。


 坂野たちは栗川ら本庁から流れてきたデカたちは、本来なら前島実業の永嶋雄一朗殺しと、松岡興業の岩沼孝一ひき逃げ事件に関し、新宿中央署に合同捜査本部を置くだけで、日々の捜査自体は所轄の署員の仕事なのだった。


 だが、ここに来て風向きが変わりつつある。


 どうやら前島実業サイドが動き出したところを見るに、坂野ら署の捜査員たちは出番が後(おく)れそうな気配がしていた。