事故死する前は、都内に本拠を置く松岡興業の取締役専務だった。


 二つの事件は一見関係性がないかに見える。


 だが、坂野たちが進めていた水面下での調査では、二つの事件は前島実業やそのフロント企業である村川グループが共謀して起こしたと考えられた。


 村川グループのトップである村川寛之は、未だに新宿区内のアジトにいて、模様眺めをしているようだ。


 それに四谷西署の粕屋が岩沼孝一がひき逃げされた際のタイヤ痕の鑑定をし、事件当夜あったわずかな目撃証言を元手に、ひき逃げの実行犯である綾坂恵作という男性を特定することに成功している。


 坂野たちは今回の二つのヤマが、仮に実行犯は別だったとしても、陰で大きな権力が動いたことで発生したと突き止めていた。


 おそらく前島実業のトップである前島恒世が命令したものと思われる。


 そしてあの事件が脳裏に甦(よみがえ)った。


 一月下旬、恒世がライバル会社のアイバドーラと他数社の大手商社の株式を時間外取引を使って取得した一件だ。


 恒世が強引な手法を使って、前島実業本体が数社の株式のうちの三分の一超を取得して