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 本庁の警視正の栗川は、坂野たち新宿中央署のデカが解決出来ていない案件を自分の配下の人間たちを使って、解決するつもりでいるようだ。


 さすがに坂野も岩永も西谷も、怒り心頭(しんとう)といった感じだった。


 例のタイヤ痕の鑑定が終わって、事件に関わっていそうな怪しい車両が特定されれば、俺たちが捜査するんだ――、と三者三様に思っていながらも……。


 だが、ここは本庁の人間たちが仕切るつもりでいたから、坂野たち所轄署員は隅に追いやられていた。


 永嶋雄一朗殺害事件は目立ったマル目がいないが、他殺の線でほぼ決まりだ。


 事件当夜、永嶋が午後八時前に社の屋上階に呼び出されて、鋭利なナイフのようなもので腹部を刺されて殺傷された後、ビル屋上から突き落とされ、死亡したものと考えられる。


 直接の死因は腹部に残っていた刺し傷だ。


 遺体にはその殺傷痕と、転落したことによる打撲痕しか残っていなかった。


 それに永嶋の持っていたカバンは不自然にも空いた状態だった。


 殺人容疑の濃厚な人物は、前島実業で専務を務める古河村比呂氏と営業部副主任の内多桂三、それに落ちてきた害者のカバンを物色したもの思われる石松貴朗だ。