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 坂野は久々に松本清張の作品を読みながら、改めて刑事になったときの初心を思い起こした。


 汗を掻(か)き、靴底を磨(す)り減らして捜査に専念する昭和期の刑事たちの有様が描き抜かれている。


 岩永が差し入れした本は全部読んでしまい、目が疲れると、病院の窓から外の景色を見つめた。


 数日が過ぎて、二月の上旬、坂野は担当ドクターから退院の許可が下り、病院を出る。


 入院期間中たっぷりと睡眠も取っていたので、職場に復帰すれば、またバリバリと仕事が出来そうだった。


 坂野は退院した日の翌日、通常通り署刑事課へと出勤してきて、


「おはよう」


 と西谷に声を掛ける。


「ああ、坂野巡査部長。無事ご退院されたんですね?」


「うん。今日からまた署で働くよ」