と言うと、電話越しに聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 ――あ、坂野さん。お疲れ様です。四谷西署の粕屋です。


「ああ、どうも。……何か新しい情報でも?」


 ――ええ。松岡興業株式会社の取締役専務だった岩沼孝一さんがひき逃げされた件ですが、例のタイヤ痕の鑑定と事件当夜のわずかな目撃証言から、実行犯が特定されましてね。


「誰なんです?」


 ――綾坂恵作という男だと分かりました。マル目による証言と似顔絵捜査官の捜査で割れました。


 綾坂恵作という新たな人物が捜査線上に浮上してきた。


 おそらく綾坂を操っている人間は、永嶋雄一朗殺害を指示し、岩沼までひき逃げさせたかなり計画的な犯罪を仕組んでいるものと思われる。


 電話を置いて坂野が言った。


「岩永警部補」


「何だ?」