楽園の炎

少し歩いて、回廊から庭に降りたユウは、朱夏を下ろすと、手を取った。

固まってしまっている朱夏の手を、ゆっくりと開かせる。
開いた朱夏の手の平は、血まみれだった。
血濡れの手の平に、透き通った短剣が光る。

「何で握ってるんだよ。これ持ってるなら、反撃すれば良かったのに」

言いながら、ユウは自分の袖を裂くと、朱夏の手をきつく縛った。
手の平から取り上げた短剣は、口に咥えている。

「あ、葵は、王族だもの。傷つけることなんて、できない・・・・・・」

しゃくり上げながら言う朱夏の涙は止まらない。
ユウは、咥えていた短剣の血を自分の衣の裾で拭うと、朱夏の首にかけた。
胸元に下がった短剣に、朱夏の涙が落ち、短剣は溶けるように輝く。

乱れた衣の合わせを掴んで震える朱夏を、ユウはしばらく黙って見つめていた。

不思議な少女だと、ユウは思う。
並の人間では扱えないような軍馬を操るかと思えば、触れれば壊れてしまいそうに、小さく震えて泣いている。

今触れるのは勇気がいるな、と思いつつも、ユウはそっと手を伸ばした。
下手に触れれば壊れそうだが、抱きしめてやりたい衝動を抑えられない。

ユウは、優しく朱夏の肩に手を回すと、腫れ物に触れるように、ふわりと朱夏を抱きしめた。
一瞬だけ、朱夏の身体が強張ったが、抵抗することもなく、朱夏はそのままユウの胸に顔を埋めて泣いている。

ユウは初めて、腕の中の小さな少女を、守ってやりたいと、強く思った。