楽園の炎

夜。

「ご機嫌ですわね、朱夏様」

湯浴みの後で、髪を梳いてもらいながら、鼻歌を歌っている朱夏に、桂枝が声をかける。

今日は忙しい一日だった。
起きたのも昼だったが、それからナスル姫とお茶をし、その後午後の兵士の訓練に加わり、夕刻に炎駒に呼ばれて宝瓶宮に行った。

その後は再び兵舎に行って、皆と夕餉を取り、湯浴みを済ませて戻って来た頃には、すでにとっぷりと夜も更けていた。

「ああ、でも、良い一日だった。ナスル姫様とのお茶も楽しかったし、何より父上と語り合えたのが、凄く嬉しいわ」

「本当に、ようございました。やはり炎駒様も、朱夏様を可愛く想っていらっしゃったのですねぇ」

しみじみと、桂枝が言う。
桂枝からすると、自分の孫とその親との間のわだかまりがなくなったようなもので、それはそれで、感無量なのだろう。

「そういえば、うちの愚息も独身ですもの。憂杏こそ、人のことを気にするよりも、自分のことを考えて欲しいものですわ」

桂枝の言葉に、朱夏は歌っていた鼻歌を止めた。
あ、と、寝台の上に置いたままの短剣に目をやる。
早く憂杏に、あの短剣の鞘を作ってもらわないと、身につけられない。

「ねぇ桂枝。憂杏は、まだ旅に出て行かないよね?」

「ええ。一応旅に出る前は、挨拶に来ますからね。今回は、また大きなお客様も来られることですし、しばらくは国に留まると思いますよ」

全く、と、桂枝はため息交じりに答える。

何だかんだいっても、憂杏は母親である桂枝を、大事にしている。
旅から帰ってくると、稼いできた金は大部分を桂枝に渡しているし、旅立つときも、きちんと母親には言って行くのだ。