楽園の炎

しばらく俯いている朱夏を見つめていた炎駒は、朱夏に歩み寄ると、椅子の前に跪いた。

「・・・・・・すまないな」

ぽつりとかけられた言葉に、朱夏は驚いて顔を上げた。
目の前に、父親の顔がある。

「すまない、朱夏。私は、王の政(まつりごと)に関わっておきながら、この国の状況を、よくわかっていなかったようだ。ククルカンの皇帝が、葵王様を気に入っているのは知っていたのに、まさかこのようなことになるとは、思いもしなかった。ククルカン皇帝のお子のことを考えれば、考えられぬことではなかったのに」

朱夏は、同じ目の高さで、苦しそうに言う炎駒を、初めて見るもののように見つめた。

実際、そこにいるのは、朱夏の知っている父親ではなかった。
このように辛そうな、それでいて慈愛に満ちた眼差しをした父親の顔など、見たことはない。

「父上。何をそんなに、お嘆きなされるのですか」

努めて冷静に言う朱夏に、炎駒は下を向いて、絞り出すように言った。

「朱夏。お前は、葵王様のことを、お慕いしていたのだろう?」

黙っている朱夏の心中をどう取ったのか、炎駒は立ち上がると、朱夏の隣に腰掛けた。

「私も、それでいいと思っていた。身分も特に、不都合はない。葵王様も、お前を好いてくださっている。お前が幸せになれる、最善の方法だと思っていた」

この父が、娘のことを考えていたというのか。
朱夏は信じられない思いで、炎駒を見つめた。