楽園の炎

「メイズ殿は古参だったからな。父上の、初めの妃だ。侍女上がりだったから、正妃にはなれなかったが。ずっと仕えてくれていた、という恩もあったんだろう」

「そうだったの。ユウのお母さんは、どんな人だったの?」

三角形の部屋を出、回廊を歩きながら、朱夏は傍らを歩く夕星に尋ねた。

「・・・・・・どんな人だったかな。何か、嫌に儚げな人だったよ。お身体が弱かったから、あんまり一緒にいることもなかったけど。町の豪族の娘だった。父上が町の視察に出たときに出会ったらしい」

「へぇ。あたしとユウみたいね」

偶然の出会いが運命の出会いだったのは、朱夏も同じだ。
夕星は、少し笑った。

「そうだね。でも立場は全然違う。俺は第三皇子だし、朱夏は宰相の娘だ。結ばれるのに、何ら問題はないだろ。けど、父上と母上は、皇帝陛下と町娘だぜ。天と地ほどの開きがある。さらに父上には、すでに正妃様がいらしたし」

朱夏は黙って夕星を見つめた。
思えば夕星の母親の話を聞くのは初めてだ。

「でも結局、父上は母上を側室として城に迎えた。まぁ、幸いにも母上は単なる町娘じゃなく、一応裕福な豪族の娘だったお陰で、それなりの礼儀もわきまえていたから、正妃様・・・・・・皇后様だな、にも気に入られたんだけどな」

朱夏は複雑な気持ちだ。
やはり、己の夫が他にも妃を迎えるなど、受け入れられない。

「何だろうな。皇后様も、遠い国から嫁いで来られて寂しかったのかも。メイズ殿の嫌がらせもあるし・・・・・・」

初めに妃になったにも関わらず、後から輿入れした姫君に正妃の座を奪われたメイズ妃は、皇后にも様々な嫌がらせをしていたらしい。