楽園の炎

「今はさ、こうしてるだけで、凄く幸せ」

照れくさく思い、朱夏は前を向いたまま、小声で言った。
夕星は何も言わず、黙って馬を操っている。

しばらく無言で馬を進めていたが、やがて夕星は、傍のネイトに顔を向けた。

「ネイト、ちょっと外れていいか?」

ひょいと辺りを見回し、長年夕星に仕えてきた隊長補佐官は、察したように息をついた。

「仕方ないですね。日が落ちると寒くなりますから、新妻のことも考えて差し上げてくださいよ」

「わかってるさ」

ネイトに笑みを返し、夕星は馬を走らせて、皇太子の元に近づいた。

「兄上、ちょっとフェーベの山まで行ってきます」

「何だと?」

じろりと鋭い目を向けた皇太子だったが、夕星の前に乗る朱夏に視線を移し、次いで遠くに見える緑の生い茂った山に視線を転ずると、ふぅ、とため息をついた。

「・・・・・・仕方ないな」

「ありがとうございます」

軽く頭を下げ、夕星は馬首を返した。
気をつけるのだぞ、という皇太子の声に笑顔で頷き、夕星の馬は隊から外れる。