朱夏が居間に行くと、夕星が外套をつけ、今まさに出かけようとしているところだった。

「ユウ、お出かけなの?」

駆け寄った朱夏は、振り向いた夕星の硬い表情に、思わず足を止めた。

「・・・・・・アリンダのところに行ってくる」

冷たい表情のまま、夕星が呟くように言う。
朱夏は、え、と一歩踏み出した。

「アリンダ皇子の護送ですよ」

横に控えていたネイトが説明した。
見ると、夕星もネイトも、暗い色の衣装に身を包んでいる。
ここしばらくは華やかなこと続きで来ただけに、それは一層異様に思えた。

「朱夏、守り刀を貸してくれ」

「あ、は、はい」

夕星に言われ、朱夏は急いで首に掛かった守り刀を外した。
朱夏から守り刀を受け取り、夕星は、くしゃ、と朱夏の頭を撫でる。

「あ、あの・・・・・・」

何となく不安になり、朱夏は口を開く。
が、特に言葉は出てこない。
代わりに夕星の袖を、きゅっと握った朱夏に、彼は柔らかく微笑んだ。

「心配するな。奴は皇家を追われる身だから、ちょっとした儀式が必要なだけだ」

「ん・・・・・・。気をつけてね」

「朱夏は炎駒殿と一緒に、散歩でもしておいたらいい。祭りもまだ続いてるし、町に行くなら近衛隊に声をかければ、皆喜んでついてくるさ」

「え、いいの?」

ぱ、と朱夏の顔が明るくなる。
横からネイトが、うぬぬ、と悔しげに呻いた。

「くっ・・・・・・。アリンダ様などの護送のために、朱夏姫様のお供ができぬとは」

「悪いな、ネイト。だが俺も同感だ」

同じように息をつき、夕星は、ひょいと朱夏に口付けると、セドナに後を頼んで出て行った。