「良かったぁ。わたくし、朱夏とも仲良くなりたかったのだけど、お部屋も遠いし、なかなかお近づきになれなくて。わたくし、国にも同じ年頃のお友達って、周りにいないの。だから、朱夏を広間で見たときから、是非お友達になって欲しくて」

「わたくしでよろしければ、是非」

嬉しそうに身を乗り出すナスル姫に、朱夏も微笑んで頷いた。

「ね、これ、食べてみて。この国にもあるかしら? ククルカンでは、基本的なお菓子なのよ。女の子が、初めに教わるお菓子なの。これだけは、わたくしも作れるのよ」

楽しそうにナスル姫が、皿を朱夏に差し出した。
中には素朴な焼き菓子に、粉砂糖や色のついた氷砂糖、カカオやナッツなどがまぶされたものが、沢山入っている。
特に難しいものではないのだろうが、朱夏は感心したように、摘んだ菓子を眺めた。

「凄いじゃないですか。これ、姫様が作ったのですか?」

「これは違うわ。乳母が作ってくれたんだと思う。もうちょっと小さいときに、乳母にねだって教えてもらったんだけど、ほら、自分で作らなくても、いい立場じゃない。だから、作れることは作れるんだけど、実は上手くできないの。失敗作を、手土産にはできないでしょ?」

ぽりぽりと頭を掻きながら、ナスル姫が、えへへ、と笑う。

---何か、本当に、可愛い姫君だなぁ---

焼き菓子を頬張りながら、朱夏はしみじみとナスル姫を見た。

この姫に、葵を取られるのが嫌だとは思わない。
むしろ、この姫を葵に取られるほうがムカつく、などと思ってしまう。