楽園の炎

「雨は上がっているとはいえ、空気が冷たい。お疲れでしょうが、早々に城に向かいましょう。ネイト」

夕星に呼ばれ、ネイトが、さっと炎駒の傍らについた。

「近衛隊長補佐官、ネイトと申します。炎駒様には輿を用意しております。お疲れでしょう、どうぞ、輿でおくつろぎください」

「あれ、父上、輿なの?」

朱夏が、驚いたようにきょろきょろする。
いつの間にか、立派な輿が用意されていた。

「一気に城まで行くから、さすがに船旅の後すぐはしんどいだろう。朱夏も一緒に、輿に乗るか?」

夕星に言われ、朱夏は少し考えた。
輿は朱夏とナスル姫が使ったような、中が見えないものではなく、椅子を担ぐタイプだ。
あれなら転がる心配もない。

「んっと。そうしようかな」

何となく、父の前で夕星と馬に相乗りするのも恥ずかしい。
朱夏は炎駒と一緒に、輿に乗ることにした。

が、ここで朱夏は、あれ? と辺りをきょろきょろと捜す。

「ねぇ父上。桂枝は?」

ああ、と炎駒は、つい、と後ろに視線をやる。

桂枝も、炎駒と一緒に来るはずだ。
炎駒の侍女だし、朱夏の乳母だし、何より憂杏の母親である。

炎駒の視線を追えば、桂枝は今、ようやく陸に降り立ったところだった。