楽園の炎

港に着いたときには、船はすでに接岸して、炎駒を迎えに行った近衛隊の面々が、何人か降りてきているところだった。
朱夏は夕星が馬を止めるなり、ぱっと飛び降り、駆けだした。

「あっおい!」

慌てる夕星の言葉も聞かず、一気に桟橋まで駆ける。

「父上!」

甲板に父の姿を見つけ、朱夏は大声で叫んだ。
炎駒は朱夏の声に気づき、手すりに寄ると、急ぎ足でタラップを降りてきた。

「父上っ!」

がばっと朱夏は、炎駒に飛びついた。

「これこれ。・・・・・・変わらないな、お前は。元気だったか?」

軽く朱夏を受け止め、炎駒はぽんぽんと背を叩く。
こくこくと頷きながら、朱夏は久しぶりの父の顔を、まじまじと見た。

「父上、お疲れじゃない? 砂漠、急いで越えられたのでしょ?」

「大丈夫だ。まだまだ私も若いからな」

笑って朱夏の頭を撫でる炎駒に、夕星が近づいた。
炎駒が、少し驚いたように目を見開く。
属国の臣下の出迎えに、わざわざ宗主国の宰相が出張ってきたことに驚いたようだ。

「これは、夕星様」

膝を付こうとする炎駒を、夕星は制した。

「今は雨の季節故、お衣装が汚れましょう。お気になさらず。遠路はるばる、ようこそおいでくださいました」

言いながら、右拳を左胸に当て、頭を下げる。
地位は夕星のほうが遙かに高いが、夕星は常に炎駒を『属国の宰相』としてではなく、『朱夏の父』として扱う。
故に、夕星のほうが炎駒に忠誠を誓う形を取るのだ。