楽園の炎

「んまあぁぁっ! お顔に傷をつけるだなんてっ! 本当にもう、何ということをっ!!」

「お身体にばっかり気を取られておりましたが、言われてみれば、お口の横も切れているではありませんか!」

きゃんきゃんと吠える二人に、朱夏は傍の磨かれた窓に顔を映してみた。
ほとんどわからないが、確かに口の横が切れている。

アリンダに張り飛ばされたときに切ったのだが、そんな深くなかったし、血は初めに憂杏が拭いてくれた。
すでに血は止まっていたし、その後の世話を引き受けたセドナも、気づかなかったのだろう。

「ああ、でも大丈夫。これぐらいは、稽古中によくやるもの」

軽く言ったとき、扉が開いて憂杏が入ってきた。

「おお朱夏。元気になったようだな。気晴らしに、散歩でもするか」

やたら朱夏の体調を気遣うセドナたちとは違い、憂杏は、ひょいと扉を指差した。
朱夏は、ぱっと笑顔になり、大きく頷いた。

が、その途端、お腹がくるる、と鳴き声を上げる。

「あ、あたし、さっき起きたばっかりなのよね。お腹空いちゃった」

ははは、と笑い、憂杏は居間の机に置かれた籠から、いつもの焼き菓子を朱夏に投げて寄越す。

「ほれ。とりあえず、これでも食ってな。もうすぐ昼だし、どっかで昼飯を調達しよう。そうだ」

明るく言う憂杏は、ぽかんとしている侍女らはそのままに、扉近くの兵士を見た。

「近衛隊は、何処で食事をしてるんだい? 兵舎での、炊き出しか?」

「そうですね。基本はそうです。仕える主や位によって変わりますが」

兵士が言うが早いか、憂杏は指を鳴らして朱夏を手招きする。

「じゃあ決まりだ。近衛隊のところに行って、皆で食事にしようぜ」

「そうね。そうしよう」