「どうもこうも。呼ばれたから逃げられませんでしたけど、お部屋に入った瞬間、回れ右したくなりましたよ。近くに行くのも怖くて、意識して足を動かさないと、竦んでしまいそうでした」

「そ、そんな見た目にも怖かったの?」

「いえ、見た目は普通なんですよ。でも雰囲気が明らかに違うというか。別に睨み付けるとか、そういうことも全くないんですけど、とにかくもう、近づくのも勘弁してくださいってお願いしたくなるような」

ごく、と朱夏は生唾を呑み込んだ。

「あ、そうそう、アリンダ皇子、鼻の骨を折られたようですよ。近衛隊のかたが引き立てたときには、顔中血だらけだったとか」

「・・・・・・あたしが殴ったときに、折ったんだ・・・・・・」

やば、と少し青くなる朱夏だったが、横でセドナが、ふん、と鼻を鳴らした。

「いい気味ですわ。さすが朱夏姫様」

咎める気は、さらさらないようだ。
アルも、うん、と頷いた。

「ただねぇ、それを聞いたときに、夕星様が大笑いしたんですよ」

「・・・・・・そりゃあ、笑うでしょう。ざまぁみさらせ、ですわよ」

いつも厳しい乳母らしくもなく、セドナが邪悪な笑みを浮かべる。
相当嫌っているのがよくわかる。