楽園の炎

ナスル姫は、ふるふると首を振った。

「とても会わせられないわ」

ぶるっと身体を震わす。

「な、何か言ってたの?」

不安な気持ちのまま、朱夏が言う。
が、またナスル姫は、ふるふると首を振った。

「何も」

そして、密かに粟肌立った腕をさすった。

「でも、空気が変わったのがわかった。無言のまま部屋を出ようとしたけど、近衛隊や兄上が、慌てて止めたわ。お兄様は見た目大人しく落ち着いて、皆の言うとおりその場に留まったけど、誰もが近づくのすら躊躇うほどの空気を纏ってたわ。多分ご自分でも、今アリンダ様に会えば、何をするかわからないって思ってるんだと思う」

「あんなことする奴、殺されたって文句言えないぜ。れっきとした皇子の婚約者を襲うなんざ、処刑もんだろ」

憤懣やるかたないというように、憂杏も言う。

「その場にわたくしもいたんだけど、わたくし、あんまり怖かったから、思わず逃げてきちゃった」

何を言うわけでもなく、空気だけでナスル姫が逃げ出すほどの怒りを感じさせるとは。

「それなら、朱夏にも当分会わないつもりかなぁ」

憂杏が相変わらず不安そうな朱夏を見ながら首を捻っていると、不意に高い足音と共に、部屋の扉がノックされた。

「朱夏姫様。入りますよ」