「おばあちゃま、女の子も強くないと、いざというとき困りますわ。強い女の子って、格好良いじゃないですか」

ニオベ姫が、相変わらず朱夏に寄り添いながら言う。
そして、意味ありげに朱夏に笑いかけた。

「夕星おじちゃまと手合わせして、もしかしておじちゃま、負けたのでは? そいで、お姉ちゃまに恋心を抱いたんじゃなくて?」

ん? というように、朱夏はニオベ姫の顔を覗き込んだ。
ニオベ姫は少し頬を赤らめて、ふふふ、と笑っている。

「・・・・・・ニオベ姫、また何か、新しいお話を侍女にしてもらったのですね」

「お話?」

顔を上げた朱夏に、トゥーラ皇后は困ったように笑いながら、カップを傾けた。

「おやすみになる前に、お話をせがむのですよ。読み聞かせの上手な侍女が、毎晩ニオベ姫にお話を聞かせるのですけどね。童話には多いでしょう、王子様とお姫様が出てきて、紆余曲折を経てめでたしめでたし。その中で、まぁ、強いお姫様との試合に負けた王子様が、お姫様に恋をする、みたいなお話があったのでは?」

「あら、馬鹿にしてらっしゃる? でも、実際夕星おじちゃまは、そうなんでしょう?」

赤くなって膨れるニオベ姫に、朱夏も皇后も吹き出した。

「あはは。残念ながら、あたしは夕星様には、一回も勝てておりません」

あら、とニオベ姫は、意外そうに朱夏を見る。
皇后は何故か、ちょっとほっとしたようだ。
近衛隊長である夕星を打ち負かす嫁など、確かに考え物だ。