楽園の炎

「あ、えっと、う~ん、そういうわけでは・・・・・・」

立ち位置としては同じかもしれないが、力の差は天と地ほどもあろう。
朱夏は曖昧に、誤魔化そうとした。
が、ニオベ姫はトゥーラ皇后の膝から飛び降り、朱夏のほうへと走り寄る。

「格好良いわ! さすが、夕星おじちゃまのお嫁さんよね。じゃあこれからは、朱夏お姉ちゃまは夕星おじちゃまをお守りするの?」

好奇心いっぱいの瞳で、ニオベ姫は朱夏の膝に手を置いて、興奮気味に言う。
朱夏は笑いながら、ぶんぶんと手を顔の前で振ってみせた。

「まさか。アルファルドではそれなりでしたが、あたしはククルカンの兵士には勝てませんよ。まして夕星様になど。まるで子供の扱いです」

「あら。手合わせしたのですか」

面白そうに、トゥーラ皇后が口を挟んだ。
一瞬しまった、と思ったが、口から出てしまったものは仕方ない。
朱夏は、えへへ、と笑って、頭を掻いた。

「ええ、何度か。でもやはり、戦もなく平和なアルファルドの兵士相手の稽古とは、全然違いますね。あたしがいくら本気でかかっていっても、夕星様は涼しい顔で軽くあしらうんですもの。コアトルの町でも、ククルカンの兵士の稽古に入れてもらったんですけど、全然駄目でした」

まぁ、と皇后は、少し驚いたように目を見開く。

「いくらアルファルドでは武官でも、兵士の稽古に入るなど、危ないですよ。わたくしは自国の兵の強さがいかほどのものかは、薄ぼんやりと『強い』としかわかりませんけど、あなたは女子(おなご)なのですから。傷でもついたら、どうするんです」

久しぶりに、こういう注意を受けた気がする。
昔はよく言われたなぁ、と思い出しつつ、朱夏は、はぁ、と答えた。