楽園の炎

「怖がらせてしまいましたね」

気遣うように言うトゥーラ皇后に、朱夏は、いえ、と呟いた。

「確かに考えてみれば、剣を持っていたところで、斬りかかるわけにはいきませんので、むしろ持たないほうがいいかもしれません」

「そうですね。あの者が朱夏姫様に斬り捨てられても、おそらく彼の取り巻き以外は、何とも思わないでしょうけど。朱夏姫様からすれば、気持ちの良いものではありませんものね」

にこにこと優しげな表情のままだが、なかなか凄いことを言う。
晩餐会の場でも思ったが、本当にアリンダ皇子というのは、人望の欠片もないようだ。

「朱夏姫様は、体術は得手ではないのかしら?」

不意にトゥーラ皇后が、再び朱夏をまじまじ見つめながら言った。

「ククルカンでは、兵士たちは剣術と同じくらい、体術にも力を入れているけど。葵王様の武官ということは、兵士の訓練も受けてきたのよね?」

「多少は教えますけど、考えてみれば、兵士の訓練としては、剣術に重点を置いております。あたしや葵は、そういう剣術以外の類は、憂杏に教わりました」

あら、とトゥーラ皇后がカップを置いた。

「憂杏というのは、ナスル様のお相手ですね。そんな昔からのお知り合いなのですか?」

「ええ。憂杏の母親は、元々あたしの父の侍女でした。アルファルド王の信頼も篤くて、侍女頭の地位にありましたね。あたしは産まれてすぐに、母を亡くしておりましたので、憂杏の母親に育てられたんです。そういう繋がりもあって、憂杏も昔は王宮仕えをする傍ら、あたしや葵の相手をしてくれてたんです」

朱夏の話を聞きながら、トゥーラ皇后は首を傾げた。

「葵王様のお世話もしていたの? 王太子のお世話役など、立派な高官なのでは? 何故野に下ったりしたのかしら」

誰もが持つ疑問であろうことを、皇后も口にする。
朱夏はちょっと曖昧に笑った。