楽園の炎

あまりの迫力に後ずさった朱夏の背中が、どん、と誰かにぶつかった。
振り向くと、夕星が立っている。

朱夏の肩を抱いて、夕星は真っ直ぐに男を睨んでいた。
見たこともないような、鋭い視線だ。

「ユ、ユウ・・・・・・」

恐ろしくなり、朱夏は小声で夕星を呼んだ。

朱夏の声に視線を落とした夕星は、ふ、と目を細めると、いつものように後ろから朱夏に抱きついた。

「心配すんな。俺の想いの強さは、お前が一番わかっているだろう?」

いつものノリに、緊張していた朱夏の気持ちが、ほっと癒される。
安心して、夕星に身を寄せた朱夏だったが、次の瞬間には、はた、と我に返った。

今この場は、ククルカン皇帝の前ではないか。
重臣たちもいる。
慌てて朱夏は、夕星を押しのけた。

「うわわっ! ちょ、ちょっと、何やってんのよ、こんなところでっ」

「何だよ。自分からくっついてきたくせに。まぁそういう照れ屋なところが、朱夏の可愛いところだがな」

「ちょっとちょっと。誰だって恥ずかしいわよ! 時と場合を考えてよ」

捕まえようとする夕星から逃げ回る朱夏に、皆呆気に取られる。
先程までの凍り付いた空気が、嘘のようだ。

「まぁ、ほほほ。本当に、お二人は仲がよろしいのね」

トゥーラ皇后が笑い、朱夏の傍に降りてきた。

「夕星様、あまり姫様を苛めるものではありませんよ。ご結婚前に嫌われてしまったら、どうするんです」

皇后の言葉に、その場の皆が、どっと笑う。
和んだ雰囲気に、皇帝と対峙していた男は、ちっと舌打ちすると、踵を返した。