楽園の炎

「・・・・・・朱夏様はすでに蓑虫状態ですし、心配です」

アルの言葉に、アシェンもちらりと輿を見た。
夕星が駆け寄り、ナスル姫を窘(たしな)めている。
やがてナスル姫は、布の向こうに消えた。

「そうですね・・・・・・。一応皇太子様の天幕は、それなりに外気は遮断できますので、大丈夫だと思いますよ。アル殿も、そちらに入られるといい。朱夏姫様付きなのですから」

ラーダやレダなどのナスル姫付きの侍女も入るのだし、と言う。

「そうですわね。朱夏様も、あの様子では、またお熱でも出しかねませんし」

アルは呟いて、空を見上げた。
灰色の雲から、雨が落ちてくる。
酷い降りではないが、気温が低い上に太陽が遮られ、一段と暗く感じる。

「ご婚礼の行列ですのに、この天気では華やかさの欠片もありませんわね」

ぼやくアルに、アシェンが黙り込んだ。
何のことだか、わからなかったようだ。

ややあって、思い出したように、ああ、と口を開いた。

「夕星様ですか。そういえば、そうでしたな。いや、私としたことが、忘れていました。いやいや、確かに花嫁は連れておりますが、ご婚礼というわけでは・・・・・・。雨の季節の後は、空気は冷たくなりますが、それはそれは良い日が続くのですよ。ククルカンの大祭もありますし、その時期にご婚礼を挙げるのは、皇族ならではです。また、その時期に合わそうとすると、やはり移動は今の時期になってしまいますね」

知っていることの説明は、さすがに皇太子の側近を務めるだけあり、よどみない。
単なる武人なだけではないのだ。

アルは感心しつつ、アシェンの話に聞き入った。