楽園の炎

「でも、商人なのに・・・・・・」

相当拘(こだわ)りがあるようだ。
が、元々身分に拘らない夕星は、軽く笑い飛ばす。

「そんなこと言うと、今お前がここにいることだって、おかしなことだぜ。商人が、ククルカン皇太子の部屋にいるんだからな」

「・・・・・・俺は、本当に商人だがな」

ぼそりと言う憂杏に、夕星は肩を竦める。

「ナスルはまだ、ククルカン皇帝の姫君だ。だからこそ、その相手たる憂杏も、こういう場所にいられるわけで。ま、そんなこと、気にするなってこった」

「ねぇユウ。あたしも、輿に乗るの?」

朱夏が、机に置いてある茶器から、お茶を注ぎながら言った。
高官の娘ながら、朱夏はいまだに、輿などという上品なものには、乗ったことがない。
ぶは、と憂杏が吹き出す。

「あはは。朱夏が輿に乗るのか。落ち着かないだろうなぁ。ま、布を降ろしておけば、どんな格好してても、外からは見えないのが救いだな」

「あたしは馬でも、全然いいのよ?」

乗ったことのない輿よりも、馬のほうがいい。
何となく、輿の中では、重心をどこに置けばいいのか、わからないような気がするのだ。

「いや、雨が降ってるからな。寒いだけなら抱いててやれるけど、雨は防いでやれないからな」

夕星が、しれっと言う。
そして、ちら、とアシェンを見てから、朱夏にそっと囁いた。

「心配なのは、アルだよ。雨で足場も悪いから、侍女はまた、兵士らに乗せてもらうんだが。さっきも言ったように、雨用の外套を着るとはいえ、完全には防げないし、この寒さだろ? 大丈夫かな」

さすがに侍女を輿に乗せるわけにはいかない。
アル以外の侍女は、元々ククルカンから来たのだから、この気温にも天候にも慣れっこだろうが、アルはずっとアルファルドにいたのだ。

元は北方の出だと言っていたが、長年温暖なアルファルドで暮らしていたので、寒さに対する適応力は、落ちているかもしれない。