「そろそろククルカンに入るはずだぜ。明日の朝ぐらいには、着くんじゃねぇかな」

憂杏が手を翳して、遠方を見る。

「天気も悪くなってきたしな。皇太子殿下の仰ったとおり、雨が降ってるのかなぁ」

憂杏と同じ方向に目を凝らすと、遙か向こうの上空は、黒い雲に覆われているのがわかる。
ナスル姫も、ドライベリーをつまみながら、うんざりというようにため息をついた。

「あ~あ。折角アルファルドで、気候の良いのを満喫していたのに。よりにもよって、一番嫌な季節に帰らないといけないなんて~」

「そんなに季節によって、違うものなの?」

相変わらずマンゴーを食べながら、朱夏が言う。

「そりゃ、結構北上してるもの。アルファルドぐらい暑いときもあれば、凍てつくような寒さのときもあるわ。むしろ、暑いときより寒いときのほうが長いわね。中でも今の、雨の季節は最悪なの。ずっと雨だし、寒いしね。あ、でも、たまの晴れ間には、虹がかかるのよ」

ふぅん、と朱夏は、前方に立ちこめる暗雲を眺めた。

「あっちに進むのよね。船は、大丈夫なの?」

ちょっと不安になる朱夏に、憂杏が、ははは、と笑った。

「何、多少の嵐にゃ、びくともしねぇぜ。雨は降ってるだろうが、嵐ではないだろう。あ、でも揺れは酷くなるかもな。アシェン様はまた、大変かもなぁ」

思い出し、くくく、と笑う。
そして、朱夏とナスル姫を促した。

「さ、寒くなってきたから、中に入ろうぜ」