楽園の炎

そうなのだろうか。
父とは普段から言葉をまともに交わせないほど会う機会がないし、最近は本当に、姿を見るのも稀になってしまった。

「お前はほら、自分の気持ちも、まだよくわかってないだろ。葵のこと、本当に好いてるかどうか、わかってないだろ? こういうことがあって、初めて男として見るもんだ」

遅いけどな、と、憂杏は朱夏の頭を撫でる。
朱夏はぼんやりと、葵を思った。
憂杏の言うとおり、朱夏自身、己の気持ちは、今どんなに考えてみても、よくわからない。


気遣わしげな憂杏と別れ、自室に戻った朱夏は、寝台に寝転んで首飾りになった短剣を眺めていた。

「まぁ朱夏様。夕餉もお召し上がりにならないで、どうしましたの」

気づくと、部屋の戸口に、夕餉の乗った盆を持ったアルが立っていた。
夕餉は兵士らと兵舎の食堂で食べたり、台所で料理人などと雑談しながらつまみ食いしたりといろいろなのだが、今日はあれ以来、誰かと雑談する気も失せ、自室に籠もっていたのだ。

「よく食べてないって、わかったね」

「兵士の一人が、朱夏様は稽古が終わると、自室に戻られたって言ってましたもの。台所にも、いらっしゃらなかったし」

ひょい、と盆を持ったまま、器用に足元に仕掛けられた罠の紐をまたぐと、アルは机に夕餉を置いた。
いい匂いのスープに、パンと干し肉が添えられている。