楽園の炎

「うう・・・・・・」

朱夏と葵が窓から見える海原に見入り、その背後では黒い陰謀が渦巻いている頃、船室の一つでは、アシェンが青い顔で寝台に突っ伏していた。
今まではアルが目の前にいたので、女性の前で横になるなどとんでもないと、何とか身体を起こしていたが、時間が経つにつれて、気持ちの悪さは増すばかり。

今は幸い、アルは桶の水を替えに行っている。
今のうちに何とか気分の悪さを和らげようとするが、船の揺れが収まるわけではないので、回復のしようもない。

---こ、このままでは、嘔吐(もど)してしまいそうだ---

女性の前で横になることもできないアシェンなので、いくら気分が悪くても、人前で、ましてそれこそ女性の前で嘔吐(もど)すことなど、とてもできない。

必死で我慢していたが、いい加減限界だ。
いくらアルが横になってください、と言っても聞かず、今まで我慢してこられただけでも、奇跡に近いだろう。

アシェンはのろのろと顔を上げ、立ち上がった。
いつものきびきびした動きとは程遠く、壁伝いによろよろと歩き、扉を開ける。
廊下にアルの姿がないことを確認し、そのままふらふらと甲板に続く階段に向かった。

「おや、アシェン様? どうしました?」

いきなり背後にかかった声に、アシェンはゆっくりと振り向いた。
特に驚かなかったのは、男の声だったからだ。

振り向くと、そこには大柄な商人が立っていた。