楽園の炎

「葵の本名は葵王だぜ。竜は、知っているだろう」

「・・・・・・何と」

竜は初めて慌てたように、葵に深々と頭を下げる。

「葵王様といえば、アルファルドの世継ぎの王子ではありませぬか。これは失礼を」

あっさりと身分を明かした夕星に、葵も憂杏も、ちょっと狼狽えた。
困ったように見る二人に、夕星は肩を竦めてみせる。

「ま、あんまり大々的には公表していないがね。竜は俺の身分も知ってるぜ」

本当の身分を知っているのに、苺鈴のこの大胆さは何だろう。

---いや、身分を知っているからこそ、か?---

ここで夕星に気に入られれば、宮殿入りも夢ではない。
上手くいけば、一躍妃の座まで手に入る。

でも、と葵は、ちらりと苺鈴を窺った。
目を見張るほどの美女ではないが、どこか毒がありつつも、見るものを惹きつけずにはおれない感じだ。

魅惑的、というより、蠱惑的、といったほうが正しいのか。
朱夏とは全く違う、もっと大人の魅力というのかなぁ、と、ぼんやり思う。

「葵王様? ご挨拶なく、申し訳ありませぬ。そのように、お怒りにならないで」

しっとりとした声音に我に返れば、苺鈴がすぐ前で見上げている。
いろいろ考えているうちに、いつしか苺鈴をじっくり見ていたらしい。

見ていた、というよりは、呑まれていた、といったほうが正しい。
気を抜けば、苺鈴に骨抜きにされそうだ。

慣れぬことに狼狽える葵の前に、苺鈴は優雅に膝を付いた。

「大変失礼を致しました。苺鈴と申します。お会いできて光栄ですわ、葵王様」

「こちらこそ。・・・・・・東の女性は、随分魅力的なんですね」