楽園の炎

「あの辺りが、コアトルの市よ。中でも向こうの、ほら、見える? 海に近いほうが、海産物なの。ま、大体がそうなんだけどね。あんまり反物とかは、ないのよね。ほら、潮の匂いとかがついちゃうし」

ナスル姫の説明に、朱夏はくんくんと鼻を鳴らす。

「・・・・・・? 特に変な匂いも、しませんけど」

「今はね。それに、ここはちょっと離れてるし。でも、お天気が悪かったり、雨が近づくと、結構匂うのよ」

ふぅん、と朱夏は、その場に座り込んだ。
ナスル姫も、横に座る。

「ナスル様も、結構土地土地に詳しいですね。お姫様がこんなに詳しいのに、あたし、何も知らないなぁ」

しばらくぼんやりと景色を眺めながら、朱夏がぽつりと呟いた。

「それはほら。どんどん領土を広げていった父上のお陰で、今まで外国だったところが、同じ国になったわけでしょ。自然そこからの人も増えるし、行き来も楽になるじゃない。知らなかったものも、どんどん入ってくるしさ。それに、それだけ領土を広げられたのも、すぐ近くに国が集まってたからなのよ」

「アルファルドは、周りに何にもなかったからなぁ」

ククルカンの属国になってからも、特に何も変わりはなかった。
異国民は確かに増えたが、流れてくるのは平民だ。

市などにいれば、もっと知ることもあったろうが、王宮にいると、召使いぐらいしか異国民はいないため、身分が高くなればなるほど、接する機会もなくなる。

「あたしはまだ、市にもよく行ってたし、憂杏から話を聞くことも多かったけど。それでもやっぱり、知らないことだらけね。王や葵は、実際にククルカン皇帝陛下にお会いして、いろいろ聞いたこともあるんだろうけど」

「これからは、お兄様がいろんなところに連れて行ってくれるわよ。コアトルは、いるだけでも諸外国のことがわかるしね」

明るく言って、ナスル姫は朱夏と一緒に、ずっと先の海を眺めた。