楽園の炎

「ま。確かに今の葵王様からは、想像できませんわね。朱夏に泣かされていたのかしら?」

くすくすと笑う。
朱夏はちょっと考えた。

「そうなのかな。昔はあたしが剣を教えてたんだけど、見るからに弱々しくて。そのくせ思い切り打ち込んでこないし。で、練習にならないって、あたしが怒って、葵が泣くという・・・・・・」

「葵王様も、お優しいからねぇ」

笑いながら言うナスル姫に、朱夏は憮然と、まぁね、と呟く。

「で、あたしが稽古をほっぽり出して、ぷいと葵から逃げて、隠れちゃうの。それを葵が必死になって捜す、という。でも、あんまり泣きながら捜すから、ちょっと可哀相になって。あたしも、いつまでも隠れてるような意地悪はしなかったですよ」

「何だ。朱夏も優しいじゃない。そういうとこ、お兄様と似てるわ」

「ユウ?」

「お兄様も、わたくしとかくれんぼしてて、わたくしが鬼だったら、すぐに出てきてくれたのよ」

ひょい、とナスル姫が、横の壁を押した。
ただの壁に見えていたのに、一部分だけが扉のように、中に開く。
中を覗くと、梯子(はしご)のような階段がついていた。

「すぐに出てこられたら、かくれんぼにならないじゃない」

ナスル姫に手招きされて、朱夏も不思議な扉の中に入る。
朱夏が入ると、ナスル姫は内側から扉を閉め、少し上に下がっている梯子に手をかけた。

「ある程度は、隠れているのよ。でも、わたくしがだんだん本気というか、必死になるのよ。泣き出しそうな勢いでね。ほら、わたくし、一人ってのが苦手だから」