楽園の炎

さて。
正妃の部屋に招かれたナスル姫たちは、沢山の反物を前に、唖然としていた。
いや正確には、唖然としているのは朱夏と葵、憂杏だけで、ナスル姫はきゃっきゃっとはしゃいでいるのだが。

「叔母様、この色はどうかしら。ちょっと地味?」

「まぁっ! 何これは。珍しい手触りだわ~」

ちょろちょろと広い部屋の中を行ったり来たりして、そこここにある反物を見て回る。
正妃はそんなナスル姫を柔らかい目で見つめ、入り口に突っ立っている三人に椅子を勧めた。

「驚きました? わたくし、昔からお裁縫が好きでね。いろんなものを、手作りで作っているの」

部屋の中は、あらゆる反物が山と積まれている。
日当たりの良い窓際には、年季の入った小さなミシンが、ちょこんと置かれている。
床には、作りかけの布が入った籠や端布の入った籠が、それでも整然と並んでいる。

朱夏は勧められた椅子に座ろうとし、ふと傍らに置かれたウサギのぬいぐるみに目が行った。
座りながら、思わずウサギを抱き上げる。

「あ、それ、可愛いでしょ」

ナスル姫が、駆け寄ってくる。

「昔、しばらくここで暮らしたときに、叔母様が作ってくださったのよ」

「え、これも手作りなのですか?」

手の中にあるウサギは、ふわふわとしてとても手触りが良い。
服は裁縫などできない朱夏でも、布を縫えばできるのだということぐらいはわかる。
が、ふわふわのウサギなど、どうやって作るのだろう。

「そうだ。叔母様、ぬいぐるみの作り方も教えて? 将来、子供ができたら作ってあげるの」

ごふん、と憂杏が咳をした。

「まぁまぁ、そうですわね。朱夏姫様、そのウサギは、あなた様のお子のために、おいておきましょうね」