楽園の炎

「どういうことかな?」

知事が、訝しげな表情で葵を見た。

「倉庫に出現したネズミを追いかけていて、転んで腰を打ったのですよ。しばらく、寝台から起きられないようでした」

おかしそうに言う葵に、皆唖然とする。
王ともあろう者が、ネズミを追いかけるとは。

「たまたま父上が見つけたんでしょうね。傍に誰もいなかったのかもしれないし。まぁ、面白い人ではありますよね」

笑いながら、葵が言う。
知事もつられて笑いながら、そんな葵を見ていたが、ふと真顔になった。

「ん? そういえば、ナスル様の今回のアルファルド入りは、葵王殿とのお見合いだったのでは・・・・・・」

だがそのナスル姫の横には、大柄な商人が座っている。

「残念ながら、ナスルは憂杏に惚れまして。葵王もまだ若いですし、そんな早急に政略結婚じみた結婚をしなくてもいいでしょう。彼はしばらく、ククルカンに留学することになりました」

さらっと夕星が、軽く説明した。
知事も、特に驚くことなく納得する。

「そう・・・・・・。ナスル様は、国のしがらみのないかたのほうが、よろしいですものね。憂杏さん、あなたは商人だといいましたね。宮廷お付きの商人なのかしら? お抱えの貴族などは、いらっしゃるの?」

正妃が、何か含んだように、憂杏に話を振った。
憂杏は臆することなく、いいえ、と答える。

「母はアルファルドの・・・・・・炎駒様付きではありますが、私自身は特に王室付きというわけではありません。他国にも、多少取引のある貴族はおりますが、これといって昵懇(じっこん)な、決まった主などおりません」

「では、端(はな)からの自由人というわけですね」

「そうなりますね」