楽園の炎

「先程の女性は? 夕星様の馬に乗っていたようですし、侍女にも見えませんでしたが、姫君にしては、妙に馬の扱いに慣れておいでのようでしたね?」

宮殿の回廊を歩きながら、知事が皇太子に聞いた。
皇太子は、ええ、と笑い、傍らを歩く葵を示した。

「葵王殿の、お付き武官ですよ。いえ、元、と言うべきかな。夕星の、婚約者です」

え、と知事は、皇太子を見返す。

「それと、これはナスルの婚約者。商人ではありますが、アルファルド王の側近についていたこともある、なかなか有能な者です」

「ほぅ。それはそれは」

興味を持ったように振り返った知事の顔が、後ろの憂杏に留まった瞬間、ぴき、と固まった。
再び、ええ? という表情になって、皇太子を見る。
ナスル姫のすぐ後ろを歩いていた正妃も、呆気に取られたように、己の少し前を歩く憂杏を見た。

「とっても頼りがいのある、しっかりした殿方ですのよ」

誇らしげに言うナスル姫に、知事も正妃も茫然とする。
が、正妃はすぐに、柔らかい笑みを憂杏に向けた。

「あらまぁ、それはそれは。ナスル様も、そんなお歳になられましたのね。確かに姫様を守ってくださりそうなかたですわ」

「憂杏と申します」

憂杏は左胸に拳を当てて、軽く頭を下げる。
本来ならば、跪いて挨拶すべきだが、何分今は回廊を歩いているのだ。
いきなり跪けば、正妃が困る。

「・・・・・・商人のわりには、身のこなしが優雅ですわね」

正式な挨拶ではないが、正妃はそれでも、憂杏の所作に目を見張った。
しかし深く突っ込むことはせず、にこりと笑って、皆を促した。