「まぁ朱夏! よくお似合いだわ~」

天幕を出るなり、待ち構えていたように、ナスル姫が飛びついてくる。
そういうナスル姫は、朱夏の平服をちょっと豪華にしただけの、『お金持ちの大商人』というぐらいの格好だ。

「これ、わたくしの衣装を、ラーダが作り変えてくれたのよ。簡単なリメイクだけど、結構良いでしょう?」

「ええ。憂杏は? やはりいつもの格好ですか?」

きょろ、と朱夏は、辺りを見回す。
向こうのほうで、馬の世話をしている憂杏の姿が見えた。
見たところ、ちょっとは良い格好をしているようだが、元々そんなものは持っていないため、大して変わらない。

「ああもう。憂杏! 折角綺麗な服を出したのに、馬の世話なんかしたら、汚れちゃうじゃない」

ナスル姫が叫び、憂杏のほうに走っていく。

「やれやれ、騒がしい奴だ。さて、そろそろ出かけるかね」

不意にかけられた声に振り向けば、夕星が皇太子と一緒に出てきたところだった。
すぐにアシェンが、皇太子の馬を引いてくる。

夕星も、近くに繋いでいた朱夏の馬のほうへ移動し、ひょいと飛び乗った。
続いて朱夏も、前に飛び乗る。

「じゃあ行くか。侍女はラーダと、レダ。あとは・・・・・・アルといったか? 朱夏姫の侍女殿でいいか」

侍女は買い物したいだろうしな、と呟き、皇太子は一緒にコアトル知事の館である、高台の小さな宮殿に向かう十数人の兵士のほうへ馬を進めた。