楽園の炎

「なるほど。ならば兄上も、俺をコアトルの知事に派遣することに、賛成してくださいよ。少しでも炎駒殿の近くに、朱夏を置いてやりたいでしょう?」

うむむ、と皇太子は渋い顔をする。

「まぁな。確かに、ククルカンの首都からアルファルドまでは、相当離れているし、里帰りといっても、そう簡単に行き来できない距離だ。コアトルの町なら、お前と喧嘩したら即帰れるぐらいの距離ではあるがな・・・・・・」

「何故そういう例えを出すのです」

納得できる理由のようであっても、その例えが気にくわないらしく、夕星は不満そうに皇太子を見た。
が、思いついたように、再び視線を朱夏に戻す。

「考えてみれば、朱夏と喧嘩したら、抑えるのも大変そうだし、追いかけるのも大変だな」

体術も相当使えるし、馬の扱いも巧みだ。
取っ組み合いも、飛び出されるのも避けたい。

「もぅ。あたし、そんなに凶暴じゃないわよ」

「そうかな。僕にはとても、朱夏は抑えきれないけど」

膨れる朱夏に、葵が突っ込む。
すかさず朱夏は、伸び上がって葵の頭を叩こうとしたが、皇太子の手前、ぐっと堪える。

だが、伸び上がった朱夏に、葵が素早く身構えた。
お互い、条件反射だ。

「ははは。葵王殿は、相当朱夏姫に振り回されてきたのだな。そういえば、朱夏姫は葵王殿の武官であったな。ということは、アシェンと同じ立場ではないか。凄いことだなぁ。一体剣の腕は、どれほどのものなのだ」

二人のやり取りに笑っていた皇太子が、感心したように言った。