楽園の炎

「いや、さすがに越えきるのは無理だよ。俺と憂杏だけとかだったら、可能だけど。人数も多いしね。とりあえずオアシスまで、朝の内に一気に行ってしまうってこと」

「そっか。でもさ、オアシスだって、そんな近くないでしょ? この速さじゃ、怪しいんじゃないの?」

まるで歩いているようなこの速度では、ひとっ走りの星見の丘だって、半日かかるのだ。
オアシスまでなど、とても行けるとは思えない。

が、夕星は明るく笑った。

「まさか、この速さで砂漠に入るわけじゃないぜ。砂漠越えは、歩兵らもラクダを借りる。侍女もそれぞれ、兵士らに乗せてもらうのさ」

大軍の砂漠越えは、スピードが命だからな、と言う夕星に、朱夏は傍らを歩くアルを見た。
その視線に気づき、夕星が前方に目をやる。

「大丈夫だよ。アルは、アシェンに乗せてもらおう」

「とんでもない。アシェン様といえば、皇太子殿下の側近ではないですか。そのようなお人の馬に乗せていただくなど・・・・・・」

アルが恐縮して言うが、夕星は軽く笑い飛ばす。

「何、構わんよ。あいつもちょっとは、女性の扱いを覚えないと。それに、お前も朱夏の側近だろ? 俺の妻の側近ということは、あいつと同じような身分なんだぜ」

朱夏自身に側近という者はいないが、なるほど、言われてみれば、アルは朱夏の側近のようなものだ。

「葵に乗せてもらってもいいんだけど。さすがにそれは、躊躇われるでしょ?」

朱夏の提案に、アルは確かに、と呟いた。
葵のほうが気安いかもしれないが、れっきとした王族と同じ馬に乗るよりは、やはり臣下であるべきだろう。

「アルは大事な侍女だもの。ここはユウに甘えて、アシェン様に乗せてもらって」

朱夏の言葉に、アルは少し微笑んだ。