「おお朱夏。どうだった? 遅かったじゃねぇか。楽しかったか? ん?」

元のユウの店に戻ると、憂杏が上機嫌で朱夏の肩をばしばしと叩いた。

「おや、何だ? 顔が赤いぞ? さては、何かあったか?」

にやにやと突っ込んでくる憂杏に、朱夏はばしんと平手をお見舞いする。

「何かって何よ。何もないわよ! さ、とっとと帰るわよ! 遅くなったから、早く帰らないと」

「いてて、何だよ。どうせお前は外宮住まいなんだから、まだ大丈夫だろうが」

叩かれた頬をさすりながら、憂杏が緩慢な動作で腰を上げる。
天幕に顔を突っ込んでいたユウが、ひょいと顔を出して朱夏を見た。

「朱夏は王子の側近なのに、外宮住まいなのか?」

「側近ではないけど・・・・・・」

先程まで抱きついていたことで、変にもじもじしながら答える朱夏に代わって、憂杏が笑いながら口を開く。

「そうなんだよ。ほれ、内宮つったら、女にしてみりゃ後宮みたいなもんじゃないか。朱夏はお子様だから、そんなところに入るのは嫌だって、葵付きだってのに、外宮に部屋を構えてるんだよ。ま、内宮の、すぐ隣だけどな」

「内宮のすぐ横・・・・・・。う~ん、王宮の中にも、行ってみたいな」

「さすがに、王宮はなぁ」

「だろうな」

さして悔やむ風でもなく、あっさりと言い、ユウは朱夏に向き直った。

「朱夏の部屋って、どの辺なんだ?」

え、と固まる朱夏に、憂杏がにやりと笑いかける。
朱夏の頭をぐりぐり撫でながら、憂杏はユウに顔を近づけた。