そう言って、今度は炎駒が本来の身分に戻り、臣下として頭を下げる。
形式的な挨拶を終え、夕星は炎駒を促して立ち上がった。

「では朱夏」

炎駒が、朱夏の手を取って、夕星のほうへ促す。

「父上・・・・・・」

何もこのまま会えなくなるわけではないのだが、朱夏はなかなか炎駒の傍を離れない。
手をぎゅっと握ったまま、涙を浮かべて見上げる娘に、炎駒は少し困ったような顔をした。

「すっかり子供に戻ってしまったようだな。これからは、夕星殿が守ってくださる。首都で行われる式には、私も参列させていただくから」

柔らかく微笑んで、炎駒は朱夏の頭を優しく撫でた。
朱夏はもう一度、ぎゅうっと炎駒に抱きつくと、振り返りつつも夕星の手を取った。

「では炎駒殿。首都でお会いできる日を、お待ちしております」

夕星が、朱夏の肩を抱いて言った。
そして、ついと視線を後方に滑らす。

「桂枝殿。そなたも我が妹の母君だ。我々には、昔から母親がいない。どうか、本当の母親として、妹を指導してやってくれ。朱夏にとっても母親なら、俺にとっても母親だ。そなたにも、首都で会える日を楽しみにしている」

朱夏以上に泣いていた桂枝が、はっとして顔を上げる。
そして、がばっと平伏した。