王宮内が慌ただしい雰囲気に包まれている。
大分前に、ククルカン軍の三分の一ほどが、先発隊として出立していった。

朝から朱夏も、最後の兵士の訓練に参加し、皆と挨拶を交わした。
一時間ほどで訓練は切り上げ、部屋に戻ると、待ち構えていた桂枝とアルに、湯船に突っ込まれる。
念入りに身体を磨かれ、用意された旅用の衣装に袖を通すと、身なりを整えて、朱夏は炎駒の前に出た。

「父上・・・・・・」

今日はククルカンへの、出立の日である。
父とも別れの日であるため、きちんと挨拶しなければ、と思うのに、前に出ると、言葉が詰まって出てこない。

「とうとう、この日が来てしまったな」

少し悲しげに、炎駒が呟いた。
ぽん、と朱夏の頭に手を置く。

「意外に早かったな。寂しいが、喜ばしくもあることだ。幸せにな」

「・・・・・・っ」

朱夏は我慢できずに、炎駒に抱きついて泣いた。
少し離れたところでは、桂枝も同じように、涙を浮かべている。

「ち、父上~・・・・・・。あ、ありがとう。ごめんなさい~」

何を言っていいのかわからず、涙だけが溢れる。
炎駒はそんな朱夏を優しく抱き寄せ、小さい子供にするように、とんとんと背中を叩いた。

「何を謝るのだ。長く放っておいた私のほうこそ、謝らねばならんのに。しかし、めでたき日に、そうやって泣いてくれるとは。私もつくづく、幸せ者だ。母上も、きっとお前を祝福しているよ」

泣きじゃくる朱夏に言いながら、炎駒は薄いベールを、娘に被せてやった。